僧帽弁閉鎖不全症とは、心臓の弁の一つである僧帽弁の閉まりが悪くなってしまうことで、本来の血液の流れとは逆に、血液が逆流してしまう病気です。僧帽弁の閉まりが悪くなってしまう原因として、弁の逸脱(弁が飛び出してしまう状態)や、弁を支える腱索の断裂、リウマチ熱などによるもの(器質性)と心筋梗塞や心不全によって心室が拡大するために弁の閉まりが悪くなるもの(機能性)があります。この病気の患者さんは、初期は無症状で経過することが多いですが、進行して肺や心臓に負担がかかってくると、息切れや呼吸苦・むくみなどの心不全症状や動悸などの不整脈症状が出現し、衰弱していく事が多いです。
心筋梗塞を起こした患者や心不全患者の20~40%にあると言われているタイプで、心不全入院を繰り返す原因になると言われています。心筋梗塞や心不全によって心臓の機能が高度に低下しており、弁のかみ合わせが悪くなり、閉まりが悪くなっています。今までは利尿剤や降圧剤で治療されてきましたが、僧帽弁接合不全修復システム(MitraClip®)による治療を行うことで、僧帽弁における血液の逆流量を減らし、心不全入院が40%以上減少することが報告されています。
弁の逸脱や、弁を支える腱索の断裂、リウマチ熱などによる器質性僧帽弁閉鎖不全症は、重度になると薬剤だけでは息切れや浮腫などの心不全症状をコントロールすることが難しくなるため、外科的に僧帽弁を人工弁に置換する手術や僧帽弁を形成する手術が必要になります。しかし、高齢の方や何かしらの持病を抱えている方は、標準治療である外科的僧帽弁置換術あるいは僧帽弁形成術では身体への負担が大きく、合併症を引き起こす危険性が高いため、より体への負担の少ない僧帽弁接合不全修復システム(MitraClip®︎)による治療が適切と考えられます。
僧帽弁接合不全修復システム(MitraClip®)は、外科的治療のように開胸する事なく、カテーテルを太ももの付け根の血管から挿入し、システムの先端に付属したクリップを僧帽弁に留置する治療法です。手術に比べて身体への負担が少ないため、手術の危険性が高い患者さんでも治療が可能です。原則として全身麻酔で行いますが、心臓を切開して人工弁を縫合する手術あるいは弁を形成する手術ではありませんので、人工心肺を使用しません。
治療は平均2〜3時間くらいで終わりますが、麻酔の準備なども含めると部屋を出てから戻ってくるまでに平均4〜5時間くらいかかります。合併症が無ければその日のうちに麻酔から覚め、夕方には食事を取ることができます。術後経過におおむね問題がなければ、術後翌日から歩行可能となります。入院期間は1週間程度ですが、病状により異なります。
退院後は定期的に外来診療と検査を行います。日常診療や投薬調整はかかりつけの病院にお願いすることもあります。その場合は、連携して経過観察を行います。食事は塩分過多にならないように注意してください。血圧や体重の変化に注意し、手帳などに記録をお願いします。
本治療は開胸手術による僧帽弁置換術・形成術と比較し逆流減少の効果は劣るとされています。また、合併症やその他の不利益が生じることがあります。重大な合併症が起こり、生命にかかわる頻度は治療中から治療後30日以内に、1%前後程度(AVJ-514 経皮的僧帽弁接合不全修復不全デバイスを使用した国内治験の結果)と言われていますが、個々の患者さんの状態により変化します。
手技成功率 | 91.13% |
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留置成功率 | 99.4% |
Single leaflet device attachment(クリップの脱落) | 1.21% |
30日死亡率 | 1.6% |
脳卒中 | 1.2% |
再治療 | 1.0% |
僧帽弁閉鎖不全症の治療として、僧帽弁接合不全修復システム(MitraClip®︎)による治療の他に、開胸による僧帽弁置換術及び形成術、薬物治療があります。治療の適応は、心臓外科との合同会議(ハートチームカンファレンス)で決定します。
僧帽弁閉鎖不全症が重症になると、労作時の息切れ、心不全などの症状が出て、入退院を繰り返し、衰弱していきます。また僧帽弁閉鎖不全症が持続することで心臓の機能が徐々に悪くなってきます。入院が必要な心不全を繰り返すことで、生命を縮めることになります。