心房細動の患者さんは、左心房の血液が滞留し血栓が出来やすくなっています。形成された血栓が他の血管に飛ぶと「血栓塞栓症」を引き起こします。脳血管に血栓塞栓症が生じた場合は、脳梗塞を生じます。このため心房細動の患者さんは、血栓塞栓症リスクに応じて、長期間にわたり抗凝固療薬を内服して血栓を予防することが必要です。しかし、長期の抗凝固療法は、出血性合併症のリスクとなり、ときに致命的な重大な出血をきたすことがあります。特に、出血の既往がある場合や脳卒中の既往、高齢、高血圧、腎機能障害、肝機能障害、抗血小板剤の併用、アルコールの常飲、繰り返す転倒などは、出血リスクを高めるとされ、治療の選択が難しくなります。
経皮的左心耳閉鎖術は、長期の抗凝固療法における出血リスクが高い患者さんに対して、血栓が形成される部位の90%以上とされる左心耳を閉鎖する治療です。経カテーテル的に左心耳を閉鎖するデバイスを永久的に留置してきます。左心耳が閉鎖されることで、血栓形成により重篤な脳卒中のリスクを軽減し、抗凝固療法を中止することが可能となる見込みです。
・ワルファリンによる抗凝固療法と比較して、以下のような利点が報告されています。
・左心耳閉鎖術後5年間の長期フォローアップデータ
年間脳梗塞回避率:97-98%、年間出血性脳卒中回避率:99%
・ワルファリン以外の抗凝固薬(直接的トロンビン阻害薬、Xa因子阻害薬)と比較して、以下のような利点が報告されています。
・長期間の経口抗凝固療法:血栓塞栓症の予防のためには、永続的な長期間の経口抗凝固療法が必要となります。ワーファリン以外の直接型経口抗凝固薬と経皮的左心耳閉鎖術の比較試験では、短期間のデータとして、虚血性脳卒中および、重度の出血性合併症、心血管死に関して、同等であることが示されました。今後長期的な治療成績について、検証が待たれます。
・外科的左心耳閉鎖術:全身麻酔、胸腔鏡下で行う左心耳を外側から切除して、閉鎖するという治療です。左心耳の形態によらず、ほぼ全例に左心耳閉鎖が可能とされており、術後早期も抗凝固療法と抗血小板療法の併用は必要ありません。本邦の観察研究(200人規模)では、手技成功率100%、左心耳閉鎖率100%、年間脳梗塞回避率99.75%と報告されています。ただし、2021年2月時点で、経皮的左心耳閉鎖術との大規模比較試験はなく、優劣についての検証はなされておりません。
左心耳閉鎖デバイス(WATCHMAN®)は、約200μmのメッシュ構造のポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルターとナイチノール製フレームで構成されており、フレームのアンカーを左心耳内部に展開することで、入口部をメッシュ構造のフィルターで覆うことが可能となります。メッシュ構造のフィルターは、動物実験では術後6週をめどに内皮化するとされており、左心耳を閉鎖することが可能となります。左心耳をメッシュ構造のフィルターで閉鎖することにより、左心耳内に形成された血栓が左心房内に流出するのを防ぎ、血栓塞栓症を予防することが可能となります。また、本治療を行うことで、術後約6週間は抗凝固療法と抗血小板療法を併用する必要がありますが、それ以降は、抗凝固療法を中止することができる可能性が高く、長期的には出血リスクを軽減することが見込まれます。
外来:術前検査として、CT、経食道心エコーを行い、左心耳の形態を評価して、治療可能かどうかを判断いたします。また、心臓血管外科なども参加するハートチームカンファレンスで治療方針を議論します。治療適応があると判断された場合、患者さん・ご家族にご説明の上、入院予定を決めます。
入院期間:3泊4日ないしは4泊5日
(入院日:麻酔科術前診察 2日目:手術 3日目:検査 4日目ないしは5日目:退院)
麻酔方法:全身麻酔(原則) *手術前日に麻酔科の術前診察があります。
治療・処置の流れ:
術後のフォローアップ:
術翌日に、経胸壁心エコー検査、血液検査、レントゲン検査を行い、問題なければ翌々日に退院となります。術後は、デバイス血栓塞栓症を予防するため、約6週間は、抗凝固療法に加えて、抗血小板療法の併用が必要となります。術後約6週間をめどに、経食道心エコーや心臓CTなどで左心耳閉鎖の評価を行います。十分に閉鎖されており、デバイス血栓症がなければ、抗凝固療法を休薬し、抗血小板療法に切り替えます。閉鎖が不十分な場合やデバイス血栓症が疑われる場合は、抗凝固療法を継続するとともに、経食道心エコーや心臓CTでの継続的なフォローアップを行います。
梗塞リスク・出血リスクいずれも高い心房細動患者さまに対して、「左心耳閉鎖術」は新たな選択肢となりえます。治療に関する外来受診やお問い合わせは、治療を担当する「佐野医師」もしくは「茂木医師」の外来へ予約をお願いいたします。