浜松医科大学循環器内科

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坂本 篤志

坂本 篤志

留学先
CVPath Institute, USA

留学期間
2017年9月~

はじめに

 時が流れるのは本当に早いもので、渡米からもうすぐ3年が経過しようとしています。現在はCOVID-19により海外留学を取り巻く環境が大きく変化しておりますが、パンデミック前までの私の研究生活についてレポートさせて頂きます。

留学に至るまでの経緯

 私は2004年に香川大学医学部を卒業後、地元である浜松へ戻ってきました。浜松医科大学と浜松赤十字病院でのたすき掛けの初期臨床研修を終えたのち、浜松医科大学第三内科へ入局し、循環器内科を専攻することにしました。循環器内科は、急性冠症候群に対するカテーテル治療をはじめとするダイナミックな治療手技や、血行動態に直接関わる循環作動薬や抗不整脈薬などの薬物治療を有しており、患者さんに対して自ら行った治療の効果をリアルタイムに肌で感じることのできる大変魅力的な診療科です。臨床医として研鑽を重ね、循環器内科としての一般的な知識技術が身についてくるにしたがって、患者さんに起こる病態の基礎となるメカニズムとは一体何なのだろうと疑問に思うことが増えてきました。また全国各地で開催される学会や研究会へ参加したり、海外留学で貴重な体験をされてきた先輩医師達の話を聞いたりするうちに、いつかは自分も海外留学をしてみたいと思うようになりました。そのためには研究をして論文を執筆し、目に見える実績を積むことが必要であることも学びました。それが、私が卒後10年目で第三内科の基礎系大学院に進学した理由です。
 私は大学院に入学するまでは、基礎研究など全くやったことがなかったため、そこで学ぶ全てのことが新鮮でした。指導医である早乙女雅夫先生をはじめ、諸先輩方の暖かい指導の元で自分の研究テーマを論文としての形にすることができたのが大学院4年目(卒後13年目)の時になります。この時点で、海外留学に出て行くための名刺がわりの実績はできたと感じていました。しかし、この時はまだ海外のどの国のどこの施設に行くというところまでは決まっていませんでした。そんな折、第三内科の先輩である大谷速人先生から、虚血性心疾患に対する冠動脈ステントの病理研究で有名な、米国のCVPath Instituteは留学先の候補としてどうかという提案を頂きました。CVPath Instituteには過去に日本人フェローが複数在籍しており、大谷先生がかつてのフェローの一人である東海大学(現近畿大学教授)の中澤学先生と親交があったことで、中澤先生に話を伺う機会を頂くことができました。中澤先生に私の留学希望を伝えたところ、米国ワシントンDCでの学会の会期中にCVPath InstituteのPresidentであるDr. Renu Virmaniとの面接の機会を頂くことができ、そこから一気に海外留学への道が開けました。紆余曲折がありながら何とかスタートラインに立つことができたのは、第三内科を通じた先輩方との繋がりがなければできなかったことです。関わって頂いた全ての方々に、この場を借りて感謝致します。

留学先について

 CVPath Instituteは、従業員50名程度の小さな私立の研究所です。私は現在、世界的に有名な心臓病理学者で、2005年にCVPathを創設したDr. Renu Virmaniと、実息で循環器医&細胞生物学者でもあるDr. Aloke V. Finnの2人のボスの下で、研究活動を行っています。現在、リサーチフェローは私も含めて6人。うち日本人は5人と最多で、他ドイツからのフェローが1人在籍しており、日々助け合いながら仕事をこなしています。

現地での研究/仕事について

 CVPathの行っている業務は大きく分けて3つあります。
 1つ目は他企業から依頼を受けた、メディカルデバイスのパフォーマンスをin vivo / in vitroの前臨床試験を行って評価し、資金を得ることです (通称カンパニーワーク)。評価デバイスは主に循環器領域で使用されるステント、バルーン、バルブなどです。まだ臨床現場に登場する前の新規デバイスも多く含まれており、それぞれのデバイスがどのような開発過程を経て臨床医の元に届くのかを知ることが出来ます。
 2つ目は、メリーランド州内で発生した異常死体が集められるOffice of the Chief Medical Examiner (OCME)という施設から、その死亡原因として心疾患の関与が否定できない症例、心臓手術後ないしデバイス留置後の症例の剖検心を受け取り、その病理評価を行うというものです。
 3つ目が、上記の業務で得た資金と資源を元にして行う研究業務です。フェローはVirmaniとAlokeのどちらかをsupervisorとして研究業務を行うのですが、私は現在、Alokeの元でマクロファージと動脈硬化石灰化に関する分子メカニズムについての研究を進めています。

最後に

 実際に日本から離れて、言葉も十分に話せない環境に飛び込んでみて、ここに来るまでの間、静岡で自分がいかに恵まれた環境で仕事ができていたのかを実感しています。現在は私自身、日々の業務に忙殺されており、留学生活で学んでいる事を日本に帰った後にどのように還元する事ができるのか、まだ答えを見つけられていません。残された期間は長くはありませんが、引き続き目の前の事に集中しながら、少し先のことも考えて頑張っていきたいと思います。

 Maryland州GaithersburgにあるCVPathの入ったメディカルビル。従業員50名ほどの小さな会社です。従業員は基本的にアメリカ人ですが、ルーツはインド、中国、ペルー、ボリビア、スリランカ、韓国、ドミニカ共和国、ドイツ、フランスなど、非常に国際色豊かです。

上司のDr. VirmaniとDr. Alokeは仕事に関して厳しいですが、いつも刺激と活力を与えてくれます。

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